再証券化での更なる影響
前回*1の続きとして、再証券化された商品が個々の住宅ローンの相関の強弱によって受ける影響について抽象化して考えてみる。
10個の同額の住宅ローンをプールし半分に分け、優先返済が受けられる商品をα、劣後返済の商品をβとすると、下記のとおり*2となる。
3つのローンがデフォルトした場合
α | ○○○○○ | 予定通りの収入 |
---|---|---|
β | ○○●●● | 予定の3/5の収入 |
6つのローンがデフォルトした場合
α | ○○○○● | 予定の4/5の収入 |
---|---|---|
β | ●●●●● | 予定の0/5の収入 |
このようにαは信用リスクを低減することで、高格付が得られる。
さらに低格付のβを使って高格付の商品を作るため、再度プールしてリスクの分割を図っている。
つまり、上記と同様なリスクの分割がされた4のプール、
優先返済が受けられるα1、α2、α3、α4劣後返済のβ1、β2、β3、β4を考える。
α1 | □□□□□ |
---|---|
β1 | △△△△△ |
α2 | □□□□□ |
---|---|
β2 | △△△△△ |
α3 | □□□□□ |
---|---|
β3 | △△△△△ |
α4 | □□□□□ |
---|---|
β4 | △△△△△ |
ここからβ1、β2、β3、β4を取出し、再度プールしてリスクを分割する。1/4に分け優先返済が受けられる商品をα'、劣後返済の商品をβ'、β''、β'''とする。
β1+β2+β3+β4
α' | △△△△△ |
---|---|
β' | △△△△△ |
β'' | △△△△△ |
β''' | △△△△△ |
β1+β2+β3+β4のうち12のローンがデフォルトした場合
α' | ○○○○○ | 予定通りの収入 |
---|---|---|
β' | ○○○●● | 予定の3/5の収入 |
β'' | ●●●●● | 予定の0/5の収入 |
β''' | ●●●●● | 予定の0/5の収入 |
β1+β2+β3+β4のうち16のローンがデフォルトした場合
α' | ○○○○● | 予定の1/5の収入 |
---|---|---|
β' | ●●●●● | 予定の0/5の収入 |
β'' | ●●●●● | 予定の0/5の収入 |
β''' | ●●●●● | 予定の0/5の収入 |
とすることでリスクは低減し、α'も高格付を得られることになる。
ただし、この再証券化した商品は、個々のローンの相関等の影響を強く受けやすいのではないだろうか。
前回と同様の条件で計算してみる。
条件
基本的な条件は前回と同様
景気の強弱が個々のローンのデフォルト率にあたえる影響を仮定したモデル。
景気の状態によるデフォルト率を下記の表のように設定する。
景気の状態→ | 最悪 | 悪い | 良い | 最良 |
---|---|---|---|---|
モデルA | 20% | 20% | 20% | 20% |
モデルB | 40% | 20% | 12% | 8% |
モデルC | 56% | 12% | 8% | 4% |
前述のように、10個の同額の住宅ローンをプールし半分に分け、優先返済が受けられる商品をα、劣後返済の商品をβとする。
さらに、βを4つ分プールして再証券化し、1/4に分け優先返済が受けられる商品をα'とする。
そして、α'を構成する5つのローンのデフォルト数の発生確率について計算し、モデルA、B、Cを比較する。
βを4つ分のプールの中のデフォルト数が15以下であれば、α'の返済原資は100%確保されていることになり、デフォルト数が16、17、18、19、20と増えるにつれて、返済原資はそれぞれ80%、60%、40%、20%、0%と減少する。
この再証券化したα'と、単に10個の同額の住宅ローンをプールし半分に分け、優先返済を受けられるαを比較する。
計算結果
再証券化した場合α'
返済原資 | モデルA | モデルB | モデルC |
---|---|---|---|
100% | 99.8% | 88.6% | 76.0% |
80% | 0.1% | 4.0% | 1.4% |
60% | 0.0% | 3.4% | 2.9% |
40% | 0.0% | 2.3% | 4.9% |
20% | 0.0% | 1.2% | 6.6% |
0% | 0.0% | 0.5% | 8.3% |
期待返資 | 99.95% | 95.0% | 82.1 |
単に10分の5の優先返済を証券化α
返済原資 | モデルA | モデルB | モデルC |
---|---|---|---|
100% | 99.3% | 95.7% | 86.7% |
80% | 0.6% | 2.9% | 6.1% |
60% | 0.1% | 1.1% | 4.4% |
40% | 0.0% | 0.3% | 2.1% |
20% | 0.0% | 0.0% | 0.6% |
0% | 0.0% | 0.0% | 0.1% |
期待返資 | 99.85% | 98.8% | 95.2% |
二つの計算結果を比較すると、景気の影響が無いモデルAの場合では、返済原資が100%確保される確率、返済原資の期待値ともに再証券化した場合α'の方が高く、リスクが低いと見なせる。しかし、モデルB、モデルCと、景気の状態による影響を付加すると、返済原資が100%確保される確率、返済原資の期待値ともに再証券化のリスクが高くなる。
以上から、単に5/10の優先返済で証券化したものよりも、再証券化した場合の方が影響を受けやすいことが分かる。そのため、個々のローンの相関や、全体に影響を与える要因を読み違えると、再証券化によりさらにリスクが高まる事が考えられる。
今回は計算の簡便化のためモデルを大幅に抽象化したが、機会があればより実態に即したモデルもかんがえてみたい。
*1:http://d.hatena.ne.jp/sugity/20090817/p2
*2:本来は劣後返済を受ける商品は利回りが高くなるため、厳密には異なる。